骨法沼男のプロ格調査報告書

骨法という沼にハマったプロレスや格闘技を中心とした潜入調査員による報告書

K-1影の最強男はブレーキの壊れたダンプカー マット・スケルトン【格闘技外国人モンスター列伝 第2回】

あらゆるジャンルの格闘技界の新旧外国人モンスターの格闘人生を取り上げる連載「格闘技外国人モンスター列伝」。二回目はこの選手を取り上げることにした。

 

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"大英帝国の不沈艦"マット・スケルトン

 

 

1999年代後期から2000年代前期にかけてK-1で活躍したイギリス人キックボクサー。ピーター・アーツアーネスト・ホーストサム・グレコといったK-1トップファイターを大いに苦しめた猛者である。

 

191cm 117kgの巨漢・スケルトンの強さはまずは相手との距離を詰めて、インファイトで圧力をかけてくるパワープレイ。蹴り足を掴んで殴りかかる、軸足を刈り払うといったムエタイ戦法を繰り返して相手のスタミナを奪うのだ。またどんなに攻撃を受けても倒れない打たれ強さを誇る。しかもパンチ力もある。とにかく相手にとって非常に厄介な選手だった。まさに相手の心を折る怪物だった。タイプは違うが彼はスタン・ハンセンのようなブレーキが壊れたダンプカーである。

 

1967年1月27日イギリス・ベッドフォードシャーベッドフォードで生まれたスケルトンは元々はバーテンダーとして働き、その一方でキックボクシングのリングに上がっていた。実はかつて第二次UWFが「イギリスにとても強いキックボクサーがいる」という評判を聞きつけてオファーをかけてことがあったというが、最終的には知名度の問題から来日は見送られた。

 

彼はプロ・アマも含めて無敗というレコードを残し、1998年4月にK-1に初来日を果たす。 南アフリカヤン・"ザ・ジャイアント"・ノルキヤニュージーランドレイ・セフォー、日本の佐竹雅昭を破り、その年(1998年)のK-1GPの出場権を得たスケルトンは一回戦で優勝候補の一人であるオーストラリアのサム・グレコと対戦する。グレコはパワーとスピリット、フィジカルを併せ持つファイター。そんなグレコを序盤パワーで圧倒。なんとスリップダウンの際に場外の本部席まで吹っ飛ばしたほどである。

 

そこに蹴り足を掴んで殴りかかる、軸足を刈り払うというスケルトンのスタイルを繰り返し、グレコのスタミナは消耗していく。だが3Rに入りグレコの右フックが入り形勢逆転していく。そこからコンビネーションでスケルトンを7コーナーに追い詰めるが、彼は倒れない。何発のパンチが入ってもだ。どうやったら倒れるのか分からない。

 

だが最終の5Rで何発も重ねたローキックによって、スケルトンは遂にダウンをしてしまい判定負けを喫する。だがスケルトンはその圧力と打たれ強さを満天下に示したのである。

 

 その後もトップファイター達を苦しめたスケルトンだったが、その闘い方が見破られてきたのかジェロム・レ・バンナフランシスコ・フィリォにKO負けを喫している。

 

だがそれでも実力が認められていた彼はK-1に継続参戦してきた。ここでスケルトンの本領発揮したのが2001年6月16日、K-1ワールドGPメルボルン大会トーナメント決勝でのアーネスト・ホースト戦。序盤はホーストのペースだったのだが、途中にアクシデントでホーストがまぶたをカットしたことにより、スケルトンは一気にKO狙いにラッシュを仕掛ける。いつものムエタイ殺法ではなくどんどん前に出てパンチを繰り出すスケルトンにメルボルンのファンは大歓声。終盤にはダウン寸前まで追い込むも、判定で敗れた。

 

ホーストに敗れ、敗者復活戦にも敗れたスケルトンは2001年11月のPRIDEでなんとK-1代表としてMMAに挑戦し、トム・エリクソンと対戦するも、ギブアップ負け。そして2002年8月に極真会館主催「一撃」というイベントを最後に来日を途絶えた。

 

K-1から姿を消したスケルトンは2002年からボクシングに転向。BBBofCイングランドヘビー級王座、BBBofC英国ヘビー級王座、英連邦ヘビー級王座、WBU世界ヘビー級王座、EBU欧州ヘビー級王座などメジャータイトルには縁はなかったが数々のタイトルを獲得した。またメジャータイトルのWBA世界ヘビー級王座にも一度挑戦している。

 

ちなみに彼は今年で53歳。2014年を最後にリングに上がっていないが引退はしていない。「体が動く間は年齢を引退の理由にしたくない」ということらしい。

 

リング上では対戦相手から嫌がられる怪物だった彼はリングを下りると物静かで心優しき紳士だった。それはボクシング転向後も変わらない。ラフプレイの多いスタイルは「汚い」を通り越し「醜い」とまで批判されていたが、リングを下りると「とても誠実な人間」「勇敢で、ユーモアも理解する」と、その人柄を誉められ、練習熱心であることでも知られた。とにかく彼は不思議なファイターである。そしてどこか愛嬌があったりするも魅力である。

 

 1990年から2000年前期にかけてのK-1は世界中からあらゆるジャンルを代表するモンスターが集結した格闘技オリンピックのようだった。メインストリームで最強であり続けたのはピーター・アーツだったり、アンディ・フグだったり、マイク・ベルナルドだったり、アーネスト・ホーストだったり、ジェロム・レ・バンナかもしれない。だが、裏舞台の最強ファイターとなると個人的にはスケルトンの名を真っ先に浮かぶ。

 

アーツやホーストらが光なら、スケルトンは影だ。

だが一試合だけかもしれない、一瞬かもしれない。

その影は一時的に光を飲み込む瞬間がある。

大英帝国の不沈艦と呼ばれた男の格闘人生は光と影が表裏一体であることを我々に教えてくれるのである。